　世附へ、、、
　4時、家を出る。外は天気予報に反して、雨。いつものコンビニで食料の仕入れ、パスモで払おうとするが、昨日のスーツに入れたままだ。釣りに行くときのパターンを、ひとつづつ確認している感じ。
　浅瀬に4時半少し前、車とバイクが5台。雨は、既に止んだ。支度を始めてすぐ、餌入れを道路に落とし、壊してしまった。蓋のロックができないが、今日はこれを使うしかない。
　小屋に向かって歩き始めると、足元の暗さに気づく。ヘッドランプを出し忘れていた。ゲートの横の、狭い隙間にハマってしまい、苦笑い。半年ぶりで、そんなに太ったわけでもないが、ザックが引っかかってしまったのだ。
　沢割ボードには、マークが４つ。金山、大棚、水の木、本水だ。今日は今年初めての世附なので、楽な千鳥橋を選ぶ。監視員と少し話し、出発。感じのいい、おじさんだった。
　既に、ライトはいらない明るさだ。まだ枝に葉が茂ってないので、林道からは流れがよく見える。ポイントごとに、思い出がよみがえる。何年も下流域を中心に通ったが、今では餌釣りは閉め出されてしまった区間だ。あの頃は、まだ沢割が行われていた。いつも、その中心で仕切っていたNさん、少し怖かったI会長、漁協のMさん、、、上流の素晴らしさを教えてくれたI先生は、今ではどこぞの校長先生らしい。

　これが渓流だ、、、
　半年ぶりの林道歩き、無理しないようにペースに気をつける。歩き始めてちょうど1時間で、千鳥橋到着。休憩しながら、着替えを済ます。川に降りていくと、水量は多め、濁りは入っていない。解禁から既に2ヶ月弱、時間が取れなくて、手軽な釣りしかしてこなかったが、やっと本格的な渓流釣りができるのだ。
　素晴らしい流れに、キジ餌に少し重めのおもりを付けて投げ入れる。対岸のゆるい流れを中心に狙ってみるが、全く魚信がない。実績もある深いポイントでも、何度流してもダメ。距離的にもちょうど良く、渓相も素晴らしいこの区間は、世附でも人気の高い場所。それにしても、渋すぎる。水は痛いほど冷たいが、太陽が出てくれば魚信も改善するだろうか。
　周辺の木々は、新しい芽が吹き始めたばかり。山には、白い山桜。色彩があるのは、ピンクの山ツツジと黄色の山吹。まさに、自然の中で渓流釣りを謳歌している感じ。
　6時半、やっと今日の1匹目が来た。5寸ほどのヤマメ。時間が経つにつれ、魚信が来るようになった。だが、サイズは6寸前後がほとんど。投げ入れ、流し、合わせ、取り込みという練習になるけど。
　
　来た！、、、
　なかなか太陽は、顔を出さない。雲の切れ間に、青空は見えているのに。気温が上がらないから、手が悴んで感覚が鈍くなる。8時半、7寸のヤマメが釣れて、やっと休憩。こんなことなら、ガスストーブを持ってきて、コーヒーでも温めるんだった。パンの中では一番好きなアップルパイを、冷たい飲み物で胃に流し込む。
　周辺に目をやると、太いトゲトゲの木の先端に、タラの芽を発見。少し高いところなので届かない、木を折ってもいけないので見るだけにした。いつも、川しか見ていない自分が、もったいない気もする。
　再開、すぐにヤマメを2匹掛けた。9時、少し上流の端へ仕掛けを投げ込むと、何となく変な感じ。それほど深さもないのだが、違和感を体が感じたのだ。何度もしつこく投げ入れる。5回目、仕掛けが動かない。一応、合わせ。ズンと、重いものが糸の先にいる。次の瞬間、そいつは流れに向かって動いた。支えられずに、下流の段へ。そして、また次の段へ。こんなことをしていたら、すぐ急流になってしまう。ここで勝負だ、糸と竿を信頼して、一気に寄せにかかる。タモに入ったのは、太ったイワナ。メジャーを当てると、30センチジャスト。初日に尺とは、こりゃ縁起がいい。

　雨に打たれ、、、
　上流にも、素晴らしい流れが続く。枝の隙間を縫って仕掛けを投げ入れると、魚信。だが、仕掛けが枝に引っかかりゲームオーバー。でも、さっきのイワナに出会えた感動で、何でも許せる気持ちになっていた。
　何度も来ている区間だが、これからの季節が一番いい時期だろう。河畔の新緑がキレイになって、ヤマメも活発に餌を追うようになって。渓流に、山藤の甘い匂いが漂う頃に、また来たいものだ。
　右岸から小さい沢が流れ込んでくると、少し先が堰堤。この区間の、終了の合図だ。ここまでに写真に納めたヤマメは15匹、イワナは1匹。堰堤では釣れる気がしないので、すぐに納竿。11時40分だった。堰堤のしぶきで気がつかなかったが、空から雨が落ち始めていた。
　慌てて林道に上がり、着替え。雨具を着込んで、林道を歩き始めた。雨は次第に本降りとなり、タイツは冷たく濡れた。ウェーダーのまま歩いた方が、良かったかな。着替えちゃったから、仕方がないが。
　浅瀬まで1時間10分、全身ずぶ濡れとなった。家に帰って、女房が「冷たい雨にびしょ濡れで、鼻水まで垂らして、体も震えているじゃない。どう考えてんの？」と聞いたら、俺は満面の笑みをたたえて、オリンピックの国母選手のように、こう言ってやるんだ。「、、、これぞ、リアル渓流フィッシング！でも、反省してまーす。」

　